仕事でも、副業でも、趣味でも。
一生懸命やってきたのに、気がつけば「やる気が出ない」。
かつて夢中だったことが、今は義務のように感じられる。
そんな“燃え尽き”の状態にあるとき、
人は「情熱を取り戻す方法」を見失います。
けれど、ある一人の吸血鬼が、その答えを静かに教えてくれます。
その名は――『バンオウ‐盤王‐』の主人公、月山元（つきやま・はじめ）。
彼は300年生きる吸血鬼。
不老不死という圧倒的な時間を持ちながら、
人生のほとんどを“将棋”に捧げてきました。
驚くべきは、彼が燃え尽きていないということです。
300年という歳月のなかで、努力が義務にも苦行にもならず、
今もなお、盤上に向かうことを“喜び”として続けている。
月山は「勝つため」ではなく、「楽しむため」に将棋を指します。
しかしある日、贔屓にしている将棋教室が閉鎖の危機を迎え、
その存続を守るために再び公式の舞台――竜王戦へと出場します。
そこでプロ棋士たちと対峙する中、
彼の心の奥に眠っていた“原初の炎”――
「勝ちたい」
という感情が、再び静かに、しかし確かに燃え上がるのです。
この物語は、努力の物語ではなく「再生の物語」です。
そして、燃え尽きた大人にこそ響く「もう一度火を灯す生き方」を描いています。
もくじ
将棋を愛し続けた吸血鬼・月山元の生き方
『バンオウ』は、「将棋」と「吸血鬼」という一見異質な組み合わせで構成されています。
けれど、その本質は“時間”と“情熱”の哲学にあります。
月山元は、死ぬことのない吸血鬼として300年を生きてきました。
彼にとって時間は無限。
だからこそ、「どう生きるか」という問いが重くのしかかる。
将棋は、そんな彼が“生きる意味”として見出したもの。
ただの娯楽ではなく、存在そのもの。
彼は長い年月をかけて修練を重ね、アマチュアの頂点に立ちます。
もはや誰にも負けない。
それでも、慢心することなく淡々と盤に向かう。
日々の生活は静かで、淡々と。
ネット将棋で相手の顔も知らずに対局し、
「勝つこと」よりも、「指す時間」そのものを楽しむ。
月山にとって将棋は、努力や競争の延長ではありません。
“楽しみ”としての修行なのです。
そんな彼が再び“戦う理由”を持ったのは、
贔屓にしていた将棋教室が閉鎖の危機に陥ったとき。
子どもたちの笑顔を守るため。
その純粋な動機が、長い沈黙を破ります。
彼は竜王戦のアマ枠に出場することを決意。
300年ぶりに社会と関わり、再び「戦う」場へと立ちます。
そして、プロ棋士との対局の中で、
再びあの感情が芽生えるのです。
「勝ちたい」
それは、燃え尽きた人が再び立ち上がる瞬間のような、
“生の再点火”のような感覚。
燃え尽きない努力の３原則
月山元の生き方を見ていると、努力という言葉の意味が変わって見えます。
彼の努力は「上に行くため」ではなく、
「生きることを続けるための行為」なのです。
その姿から学べるのは、“燃え尽きない努力”を続けるための３つの原則です。
① 楽しみを失わない努力をする
月山は、将棋を「修行」ではなく「遊び」として続けてきました。
それは軽い意味での“遊び”ではなく、探究としての遊び。
彼は「勝ち負け」ではなく、「美しい一手」を探すことに夢中です。
結果ではなく、プロセスに価値を置いている。
努力がつらく感じるときほど、
“楽しみ”の側に重心を戻す必要があります。
頑張りすぎているときは、「成長」ではなく「探究」に戻る。
努力を“義務”ではなく“遊び”に変えること。
それが、情熱を長く保つ秘訣です。
② 他者のために動く
月山が竜王戦に出場した動機は、自分の栄光ではありません。
通っていた将棋教室を守るため。
他者の存在は、時に私たちの“再点火スイッチ”になります。
「自分のため」だけだと、結果が出ないと心が折れる。
でも、「誰かのため」に頑張ると、結果以上の意味が生まれる。
孤立した努力は摩耗する。
しかし“つながりのある努力”は、エネルギーを再循環させる。
月山のように「人のため」に動くことが、
燃え尽きた心をもう一度動かす一歩になります。
③ 欲を再び肯定する
月山は、竜王戦の中で再び「勝ちたい」と感じます。
それは、長い静寂のあとに訪れた純粋な衝動。
この“欲”の再生こそが、人間らしさの回復です。
燃え尽きた人がまず失うのは、モチベーションではなく「欲」。
「もう勝ち負けなんてどうでもいい」と思うのは、
実は心が冷めたのではなく、守りに入ったサインです。
月山の姿は教えてくれます。
欲を恥じる必要はない。
欲をもう一度受け入れることが、再び生き始める第一歩だと。
燃え尽きた人が、再び燃える３ステップ
月山は燃え尽きていません。
しかし彼の行動パターンをなぞると、
燃え尽きた人が再び情熱を取り戻すプロセスが見えてきます。
STEP1：無理に頑張らない
燃え尽きからの回復に必要なのは、「休息」だけではありません。
大切なのは、「努力の質」を変えること。
月山のように、勝ち負けを脇に置いて“楽しむ努力”に切り替える。
「やらなきゃ」ではなく、「やりたい」へ。
義務から遊びへ。
そのギアチェンジが、再燃の土台を作ります。
STEP2：誰かのために動く
情熱の火は、他者との関わりの中で再び灯ります。
月山は、将棋教室を守るために竜王戦へと立ち上がりました。
自分の世界が閉じてしまったとき、
他者との接点が“酸素”になる。
その酸素が、再び火を大きくしていくのです。
STEP3：抑えていた情熱を受け入れる
「勝ちたい」「もっとやりたい」。
そう感じた瞬間を、否定しないでください。
その感情こそが、生きるエネルギーの再起動。
月山にとって「勝ちたい」は、
単なる競争心ではなく、“もう一度、生きたい”の裏返しです。
欲を認める勇気。
それが、再燃の最後の鍵になります。
月山が教えてくれる“情熱の再設計”
月山元は燃え尽きませんでした。
なぜなら、彼は努力を「生きる楽しみ」に変えていたからです。
燃え尽きた人が情熱を取り戻すには、
「努力をやめる」ことではなく、
「努力の質を変える」ことが必要です。
燃え尽きた人に必要なのは、
もう一度火をつけることではなく、
火が消えない環境を整えること。
月山が教えてくれるのは、情熱を“燃やし続ける技法”です。
それは、勝ち続けることでも、常に努力することでもない。
ただ、楽しみながら続ける構造をつくること。
それが、長い時間を生きる彼が体現した「生の技術」でした。
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おわりに
『バンオウ』は、努力の物語ではありません。
“努力の先に、どう生きるか”を問う物語です。
あなたがかつて夢中になったこと。
いまは遠ざかってしまった“好き”なこと。
そこに、もう一度手を伸ばしてみてください。
情熱は、再び燃える。
それを教えてくれるのが、『バンオウ‐盤王‐』という物語です。
あなたが“もう一度好きだったこと”に触れるとき、
月山元のように静かに、でも確かに炎が戻ってくるはずです。
また次回。
ありがとうございました。
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